ストリート・オーケストラ


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頻発する犯罪が全世界に宣伝されたリオ・オリンピックの国ブラジル。その犯罪が生まれる巣窟とされているスラムを舞台にした『ストリート・オーケストラ (原題:Tudo que aprendemos juntos 共に学んだすべて)』はサンパウロ最大のスラムに1996年に創立された実在のオーケストラ「エリオポリス交響楽団」をモデルとした作品である。サンパウロ交響楽団のヴァイオリニストの最終試験で不合格となったラエルチはスラムの学校の音楽教師として働き始めるが、音楽以前に「クラス中に座っていることすらできない」子ども達にほとほと手を焼く。楽譜も読めない子どもたちと、なんとマフィアのパーティで演奏をしなければならないという難題をクリアしながら、ラエルチと子どもたちは次第に心を通わせていき、調和をもって音楽を作り上げ共に成長していく様子が描かれている。
ブラジルのスラムにおけるソーシャルプロジェクトとして音楽・サンバ レゲエやダンス・カポエイラなどの文化活動が青少年育成に有効だという、このような話はすでに映画化されている中で、「ストリート・オーケストラ」もまた、単なる物質的な貧しさの貧困だけでなく、孤独や、安心できる場所がないこと、他人から認められることのない虚しさ、誇れるものがないという心の貧しさを、文化と教育こそが豊かに育んでいくことができるという思いをこめて制作されている。
社会が育むことができなかった不安定な青少年の心の代償は大きい。少年が犯罪に手を染め、巻き込まれて警察の銃弾に倒れるシーンはあまりにリアルで息を飲むようだし、蜂起したスラムの住民の怒りと、友を亡くした悲しみに演奏する子どもたちは隣で涙しているように迫って胸が詰まるようだ。
ブラジルの国民的俳優ラザロ・ハーモスと、若手のカイケ・ジェズース、エウジオ・ヴィエイラと、実際にスラムに暮らす多くの子どもたちが織り成すブラジルの現実と希望の物語。
全編にわたりクラシックのみならずブラジリアン・ラップやポップスで綴られている音楽も聴きのがせない。ヴァイオリンとカヴァキーニョの共演や、生徒たちが輪になって即興でブラジル音楽を奏でるシーンなど、クラシックの完成されたスタイルに、ブラジルならではのざわつきや外れたリズムが混じり込んで見事だ。キャストにブラジルで人気のラッパー、クリオーロが意外な役どころで出演している点もお見逃しなく! [S.W]

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『ストリート・オーケストラ』
2015年/ブラジル/103分
監督・脚本:セルジオ・マシャード 出演:ラザロ・ハーモス、サンドラ・コルベローニ、カイケ・ジェジュース
配給:ギャガ GAGA★

公開日:全国順次公開中
劇場:ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマジャック&ベティほか
公式サイト:http://gaga.ne.jp/street/

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